歯科医院に潜む感染リスク:
「エアロゾル」
回転器具、超音波スケーラーやパウダージェットハンドピースの使用によりエアロゾルが発生します。エアロゾルは切削片や歯磨剤だけではなく回転器具からの冷却水、唾液、血液、分泌物を含んだ霧状の汚染水で、医療現場での高感染リスクに分類されます。
感染リスクを軽減するためには、口腔内バキュームを使って正しく吸引を行うことが非常に大切です。直接エアロゾルが発生する箇所から吸引することによってのみ、エアロゾルが診療室中に飛散するのを防ぐことができます。これにより、病原体を含んだエアロゾルによる汚染を最小限に抑えることができます。
口腔内バキュームによるエアロゾル除去
歯科診療時の口腔内バキュームによるエアロゾル除去法について、ドイツデュールデンタル社のアカデミーで研究が行われました。※8 結果(下記グラフ参照)
- バキューム吸引量300ℓ/分以下: エアロゾルの粒子の完全除去は困難
▶吸引量300ℓ/分以下のバキュームの使用はエアロゾルの完全除去には不十分です。尚、吸引量300ℓ/分以下(200ℓ/分以上)の場合でも、バキュームチップの適切な位置/使用によりエアロゾルは部分的に減少できます。 - バキューム吸引量300ℓ/分以上: エアロゾルの粒子は観測されず、エアロゾルを完全に除去することが可能
▶吸引量300ℓ/分以上のバキュームを使用することが最も重要なポイントです。 - 口腔内バキュームを正しく使用することでエアロゾル除去の効果が上がります(カニューレの先端を常にエアロゾル発生源に近づけ、効果的にエアロゾルを除去する)。
- 大きいカニューレ(16㎜)は小さいカニューレ(11㎜)より吸引効果が高いです。
▶大きいカニューレ(16㎜)の使用を推奨します。
グラフ:バキューム吸引量によるエアロゾルの減少率
この研究は、異なるサイズのカニューレ、バキュームハンドピース及び吸引量でエアロゾルの粒子を計測したものです。吸引量200ℓ/分未満ではエアロゾルの減少は遅く、除去効果も不十分です。グラフのカーブは、計測平均値をもとに示されています。
関連情報
※1 | Peng et al. (2020): 2019-nCoVの感染経路と歯科医院での感染管理、口腔科学のインターナショナルジャーナル(2020) 12:9 |
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※2 | ゲノムリサーチ(2009), DOI: 10.1101/gr.084616.108, ヒトの唾液細菌叢における多様性について |
※3 | Xavier et al. (2015):慢性C型肝炎感染患者の唾液中ウイルス量の評価、感染症と公衆衛生ジャーナル、Vol 8, Issue 5, 474-480 |
※4 | Kai-Wang To et al. (2020): SARS-CoV-2感染中の後部口腔咽頭唾液サンプル中のウイルス量と血清抗体反応の時間的プロファイル:コホート観察研究、ランセット、感染症 |
※5 | Bennet et al.ブリティッシュデンタルジャーナル、V.189 No.12 (2000)、一般歯科診療における微生物エアロゾル |
※6 | Drisko et al. (2000):ポジションペーパー:歯周治療における音波および超音波スケーラーの研究、科学と治療、ジャーナル・オブ・ペリオドントロジ 71, 1792-280 |
※7 | Graetz et al. (2014):歯科診療における飛散汚染―どのように予防できるか?Rev.Med. Chir. Soc Med. Nat. Iasi – 2014 – vol 118, no.4 |
※8 | Koch (2020),口腔内スプレーミスト吸引によるエアロゾル削減、パイロットスタディーからの最初の発見
Koch (2020), Aerosol reduction by means of an intraoral spray mist suction – first findings from an experimental pilot study 英語のオリジナル出版物はこちら |
Tillner A (2016):バイオフィルム除去時の新開発カニューレ使用による有効性に関するインビトロ研究、キールのクリスチャンアルブレヒト大学医学部 |
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Barnes et al. (1998):超音波使用で発生したエアロゾルによる血液汚染のインビボ研究、ジャーナル・オブ・ペリオドントロジ 69, 434-438 Barnes et al. (1998): Blood contamination of the aerosols product ed by in vivo use of ultrasonics. Journal of Periodontology 69, 434-438 英語のオリジナル出版物はこちら |
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Coleman et al. (2010)—歯科医院内の微生物バイオフィルム管理:複数リスクの軽減、ジャーナル・オブ・インフェクション・プリベンション 11/2010 Vol.11, No.6 Coleman et al. (2010) – Microbial biofilm control within the dental clinic: reducing multiple risks, Journal of Infection Prevention 11/2010 Vol.11, No.6 英語のオリジナル出版物はこちら |